9月~10月はタリハに腰を落ち着けて、学校をまわる日々が続きました。評価、試験、補習が始まる11月に入ると、学校での仕事は難しくなります。12月の学年末と卒業式にむけて先生達は大忙しになるのです。新しい学校でリサイクルのシステムを作る活動を続ける傍ら、以前から働き始めた学校ではコンポスト作りを継続します。寒さであまり変化がなかったコンポストも、冬休みがあけて暖かさを増すにつれて活発に分解が進み始めました。
コンポスト作りは生物の授業を使って行うので対象は日本でいう中学生から高校生。学校、学年、クラスによって反応は様々でしたが、コンポストに使うミミズを実際に観察しながら生態を学ぶ授業はどの生徒も大喜びでした。この授業に向けた準備のおかげで私もミミズについてちょっと詳しくなりました。雌雄同体であることや皮膚で呼吸すること、心臓は5つのパーツに分かれていること、小さな脳とながーい腸をもっていること、環帯と呼ばれる白い輪の部分で生殖活動を行うこと、だから環帯は大人のミミズの証であることなどなど。コンポストにはカリフォルニアミミズ(日本で使われているシマミミズとたぶん同じ)という生ごみを食べる種類を使います。糞に含まれるミネラルによってコンポストの質があがるのです。
コンポストを作るのは初めて。ネットとボリビアで手に入れた冊子を見ながらこわごわと始めました。材料もそろわずコンポストの寝床も写真の通り。それでも最初に始めた学校ではこげ茶色のほくほくした土ができ始めました。生徒たちは週に1度の生物の時間に混ぜ返しを行い、新たな生ごみを足し、水を撒きます。夏になり、温度があがると週2度水を撒いて、湿り気を保つようにしました。ミミズはどんどん増え、黒々と大きく太ってきています。黄色がかった透明の卵、小さくて白い赤ちゃんミミズやピンクがかった子供ミミズもたくさんいます。興味を持つ生徒ももたない生徒もいるけれど、変化をみるとやはり嬉しそう。近くにあるたくさんある鳩の糞を入れてやってみたらどうだろうと実験用に小さな寝床を作ったのはやんちゃな男の子たちです。出来あがったコンポストは庭の植木にあげたりしていますが、来年は畑を作って野菜を作ろうと話しています。
そんなある金曜日の夜、Escuela de Convenio(カトリック教会の援助を受けている公立の学校)のダンスのプレゼンテーションがありました。通っている学校の1つ、U.E Teresa de Calcuta(マザー・テレサ学校)の先生達と練習していたMexicana(メヒカーナ)というメキシコの踊りを踊りました。先生たちだけではなく、学校を代表して子供や生徒たちも踊ります。6時に開始の予定がようやく7時半ころに始まるという相変わらずのタリハらしさ。創立記念日、母の日、先生の日・・・生徒たちによるボリビア各地のダンスは見慣れてきてもいたし、あまりにも回数が多すぎる上、練習と称して授業がカットされ、ただでさえ午前又は午後のみと授業時間数の少ないボリビアの学校、首を傾げることもありました。ボリビアの子供達の学習時間の少なさは相当なものです。それでも、初めて公に参加したダンス大会。見るだけとは違った楽しさです。メヒカーナはゆっくりした動きの踊りで難しくはないけれど、さすがに緊張。結局全員そろって練習することがなかったから多少?ずれはあったものの、最後まで踊りきって会場から拍手をもらった時はほっとしたのでした。揃えた衣装もフクシア色の長いドレス。着ているだけで楽しい気分になりました。
そして10月23日、U.E Nazalia Ignacia March(ナザリア・イグナシア・マーチ校)の最終学年、日本でいう高校3年生のクラスを自然保護区へ連れていきました。アルゼンチンとの国境、Belmejo(ベルメホ)への道の途中にあるReserva Natural de Alarachi(アララチ自然保護区)です。サマの自然保護区の職員の仕事について行かせてもらって下見したり、Alarachiの自然保護区を担当するNGO、PROMETAと打ち合わせを進めて、今年中に一度はどこかの学校でやりたいと思っていたけれど、デモや行事で授業時間を削られなかなか実現しなかった体験学習。雨季がはじまったばかりでまだ緑が少なく乾燥したサマより、標高が低く湿度の高いアララチの森が生物の先生の興味をひいて、今回連れて行くことになりました。
人間の活動が自然に及ぼす影響を考える事前学習をした週末日曜日、Mercado Campesino(メルカド・カンぺシ―ノ)前に集合。集合時間は8時。全員集まったのは8時半。まずまずの出だしです。21人と少人数で仲の良いクラス、一緒に働く2人の生物の先生が引率です。今回、PROMETAとの書類のやりとりやガイドの手配は私がしたけれど、バスの手配をしてくれたのはクラスの男の子たち。学校のない午前中は仕事をして家族の手助けをするボリビアの生徒には社会性があり、思わぬ大人っぽさを見せてくれます。少々ガタのきたミニバスはとてもゆっくりで、ガイドが待っていてくれるはずの小さな村Mamora(マモラ)に到着したのは予定時間を30分以上過ぎた10時半過ぎ。ガイドにもPROMETAの友人にも電話はつながらず、暇げにたたずむ警官は親切だったけれどガイドは知らないとのことで、ミニバスで少し先にあるという保護区の入り口へいってみることにしました。ところがここにも誰もおらず。なんだか嫌な予感・・・。ここまで来ると電話の電波も入らず、お手上げとなりました。保護区の看板からおそらくここだろうと見当をつけて草木の中に入ってみるも地図もなく、引率3人でさてどうしようかと顔を見合わせました。
それでも少し歩くと水の流れる音が聞こえてきて、川が近いことがわかりました。確か滝があったはずと、川の上流へ向かって30分ほど歩きました(でも、なかった・・・)。石だらけの川沿いをキャーキャーいいながら歩き、川べりでお昼御飯としました。男の子たちが川で泳ぎたがるので、少々心配だったものの許可。早い流れにのって楽しげに遊んでいます。残った生徒たちと写真をとったり、歌を歌ったりして過ごし、川遊びをする男の子の服を女の子が奪いにいったりして(水着はもってきていない・・・)それなりに楽しんではいるものの、さすがにこれだけで帰るわけにはいきません。せっかくお金を出し合ってバスをチャーターしてきたのに、いくらなんでも悲しすぎます。とはいってもガイドをする知識など私にあろうはずもないし、いくら生物の先生でもそれは無理。少々焦ってきた3人。
一度ミニバスへ戻ろうと生徒たちを行かせた直後、男性が1人斜面を降りてくるのが見えました。もしや!と思ったら、ガイドさんでした!マモラで待っていたけれど、来ないから一度保護区へいってみた、それでもいないから、ここへ戻ってきたらミニバスがあったからずっと探していたんだとのこと。そう、実は川べりへ向かっていた時、人の叫び声を聞いた気がしたのでした。一回きりでとぎれたので、気のせいかと思ったのですが、きっと彼だったのでしょう。アルゼンチン人だという男前のガイドさんが天使に見えたのでした。時間は14時。今からでも行けるかと聞くところ構わないとのこと。保護区は実はもう少し先だとのことでバスに乗り込んできたガイドと共に向かいます。途中3つの真っ暗なトンネルを通ると生徒たちは歓声を上げて大はしゃぎ。ちょっと退屈してきたところだったのでと、ガイドさんに言い訳しつつ、彼に会えた安堵感で私たちの気持ちも高揚。
そして連れて行かれたのは熱帯の森。タリハからベルメホへ向かう道は次第に緑が増して日本の景色に似てきます。茶色い禿山から木々に覆われた緑の山へと変わってくるといつも心が浮き立つ思いがしました。その幹線道路からほんの少し中へ入っただけなのに、保護区内の森へ入った途端の気温の変化は劇的でした。湿度がぐんとあがって暑くなります。最初にいた川べりでは寒かったくらいなのに、散策道を少し歩くと汗びっしょり。咲く花々も赤や黄色の原色で派手です。木を切り、道路を通すことでここの気候はかなり変わったことでしょう。木々にまきつく蔓は丈夫だからのぼってみろというガイドの言葉に男の子たちはターザンごっこ。ぶんたんに似た木の実を食べてみるように差し出すガイド。ゴムの木の幹を削って白い汁を出してみせます。つられて華やかな花を折ってしまった女の子。嬉しそうだったけれど、さすがにこれは注意。本来自然保護区ならばそこにあるものを傷つけてはならないけれど、五感を使って自然を体感するのも大切。迷うところだけれど訪れる人間皆がこんなことをしていたら保護区の意味がありません。ガイドの教育はどうしているのだろうと気になりました。
たった1時間ちょっと(ミニバスではかなり時間かかったけど)下っただけなのに、タリハとは全く異なった気候。ボリビアの豊かさにまた触れた思いでした。滅多にタリハをでることのない生徒たちがはしゃぐのも当然です。帰りはさすがに疲れて眠りこむ生徒たち。それを見ながらやっぱり連れてきてよかった、ガイドに会えて良かった(!)と2人の先生と大満足したのでした。手順を聞いただけなのと、一度経験するのとでは大違い。次回連れて行く時に必要な事柄も、事前・事後学習に盛り込みたい内容もわかってきました。実際ゴミについてはプロジェクトの威力(?)もあって、生徒たちは袋につめたゴミを自慢げに見せ、バナナの皮1つ残すことなく川辺及び保護区を後にしたのでした。12月に卒業するこの子たちと会う機会はもう数少ないけれど、初めて企画して出かけた彼らとの体験学習をきっと忘れないでしょう。そして彼らにとっても東洋から来た外国人との遠出はまた格別だったようで、国際親善(?)にも貢献したのでした。11月には卒業旅行でラパスに行くと言う彼ら。GripeH1N1(インフルエンザ)がはやりだして、学校単位の旅行が禁止になったともいわれているのでちょっと心配です。無事に行けるといいなと思います。18時にはもどっている予定がタリハに到着したのは20時。保護者に何か言われたら携帯に電話しなさいと引率の先生たちが言っています。途中家の近くでバスを降ろしてもらって、3匹のノミをお伴に、気持ち良い疲れを感じながら帰ったのでした。(1匹はシャワーをしたその翌日発見!どこにいたの??)